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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第20章 待ち人
「彦……」
「でも、お前が神依の体にも魂にも自分の胤(たね)しか許さねえってくらい惚れてんなら、仕方ない。あとは意地でも何でも男気見せて、神依に辿り着く前に絶対にくたばんなよ」
「……」
それは何とも猿彦らしい、男女の理(ことわり)と男友達だからこその下世話な笑いを混ぜた、風変わりな声援だった。最後は振り向きざまに、どんと気合いを入れるように胸元を叩かれて、日嗣は穏やかに笑んでみせる。
 最奥は、それからすぐそこだった。猿彦はおもむろに羽扇を取り、空気を撫でる。そこは見た目にはただの行き止まりだったが、あの清狂の神が宣ったままに──確かに門が、開いていた。
 「開いてる。……視えるように顕すぞ」
「ああ」
日嗣が頷けば、猿彦もそれに応える。
「──では今より衢神(ちまたのかみ)が、天より神の御子がお降りになるを承(う)け、御前に仕え先を示そう」
その国津神の詞(ことば)に、闇夜に隠れていた何かが一斉に羽ばたくように、空気がざわりと蠢く。
 羽扇を振るえば洞穴に一陣の風が吹き、また嵐に御簾や几帳がはためくように、岩壁が揺れ始めた。猿彦の赤頭が暴れ狂う獅子のように舞うと共にその岩壁のしなはあっという間に大きさを増し、現世から剥がれ飛ぶ。
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