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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第19章 還るべき場所
「大丈夫よ。会えても会えなくても、きっとすぐに、あなたは私達のことなんて忘れてしまうわ」
「……」
その突き放すような台詞も、娘の幸せを信じて疑わない母のものだと神依は悟って、しっかりと頷く。親のことを忘れられるほどの幸せなど、世に幾つもあるものではないはずなのに……それを信じてくれている。
「淡島に帰ったら、花を捧げます。毎日──毎日」
「ええ。……」
「待っている」
そうしていかにも仰々しい、重苦しい細工が施された扉の取っ手に手を掛ければ、それは意外にも簡単に外への道を明け渡してくれた。
目の前に広がるのは、夜の色に染め尽くされた荒野の景色。鬱蒼と生い茂る草木や切り立った山肌、大地は何だか踏み出したらずぶずぶと沈みそうな水を含んだもので、神依は一度息を呑む。
(……大丈夫……怖くない。だってきっと、日嗣様もこの世界に来てくれてる。同じ世界に、いられるんだから)
臆病風に吹かれそうになったが、それさえ一緒に呑み込んで、……一歩。
神依は確かに扉を隔てた世界にしっかりと降り立つと、もう一度振り返って背後を確認した。
「……!」
しかしそこにはもう、何もない。
たった今くぐった門も、庭も、御殿も、二人も……。
「……」
その突き放すような台詞も、娘の幸せを信じて疑わない母のものだと神依は悟って、しっかりと頷く。親のことを忘れられるほどの幸せなど、世に幾つもあるものではないはずなのに……それを信じてくれている。
「淡島に帰ったら、花を捧げます。毎日──毎日」
「ええ。……」
「待っている」
そうしていかにも仰々しい、重苦しい細工が施された扉の取っ手に手を掛ければ、それは意外にも簡単に外への道を明け渡してくれた。
目の前に広がるのは、夜の色に染め尽くされた荒野の景色。鬱蒼と生い茂る草木や切り立った山肌、大地は何だか踏み出したらずぶずぶと沈みそうな水を含んだもので、神依は一度息を呑む。
(……大丈夫……怖くない。だってきっと、日嗣様もこの世界に来てくれてる。同じ世界に、いられるんだから)
臆病風に吹かれそうになったが、それさえ一緒に呑み込んで、……一歩。
神依は確かに扉を隔てた世界にしっかりと降り立つと、もう一度振り返って背後を確認した。
「……!」
しかしそこにはもう、何もない。
たった今くぐった門も、庭も、御殿も、二人も……。

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