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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第19章 還るべき場所
「私……、私は、もう前と違うのに? ……こんな格好なのに……?」
「ああ、そうだ。あれは余が消える間際まで、うぬを返せと吼えておったぞ。後のことは分からぬが、あの勢いあらば地位や建前など紙一枚の障りにもなり得まい。
故に本音を申さば、うぬ一人を送り出すより、二人の方が幾らか安心して放り出してやれるのだが──」
「……」
最後の、おそらく父親としての心情を暗に表す言い回しに、神依の表情が自然と和らぐ。それと同時に、何かが解きほぐされたような感覚が芯を通り抜けて──神依はゆっくりと、首を横に振った。
(……日嗣……様)
──来てくれていた。それだけで、充分だった。
夢の中で、悪夢の中で。またあの熱波の悪意の中で、何度も何度も求めた男。その男は、きっとあらゆるものを振り切って虜囚の自分を救いに来てくれていたのだろう。そしてなお、死地に拐われる自分を求めてくれた。
それを想えば、何だかむず痒いような感覚が体中に広がって、馬鹿みたいに甘酸っぱい心地に満たされた。
信じるにはまだ足元が覚束ない。実際に再会した時、何を言われるか不安もある。けれども信じないことの方が怖くて、そちらを選んでしまえば本当に日嗣から遠ざけられてしまう気もした。
「ああ、そうだ。あれは余が消える間際まで、うぬを返せと吼えておったぞ。後のことは分からぬが、あの勢いあらば地位や建前など紙一枚の障りにもなり得まい。
故に本音を申さば、うぬ一人を送り出すより、二人の方が幾らか安心して放り出してやれるのだが──」
「……」
最後の、おそらく父親としての心情を暗に表す言い回しに、神依の表情が自然と和らぐ。それと同時に、何かが解きほぐされたような感覚が芯を通り抜けて──神依はゆっくりと、首を横に振った。
(……日嗣……様)
──来てくれていた。それだけで、充分だった。
夢の中で、悪夢の中で。またあの熱波の悪意の中で、何度も何度も求めた男。その男は、きっとあらゆるものを振り切って虜囚の自分を救いに来てくれていたのだろう。そしてなお、死地に拐われる自分を求めてくれた。
それを想えば、何だかむず痒いような感覚が体中に広がって、馬鹿みたいに甘酸っぱい心地に満たされた。
信じるにはまだ足元が覚束ない。実際に再会した時、何を言われるか不安もある。けれども信じないことの方が怖くて、そちらを選んでしまえば本当に日嗣から遠ざけられてしまう気もした。

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