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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第19章 還るべき場所
素戔鳴もまたため息を吐きながら肘枕をして、くすくす笑いあう妻と娘に向かい合う。
目に映るのは、来た時よりは柔らかくなった春先の蕾のような髪と、寂しげな色を宿した妻の笑顔。
仕方ない。間に入っているのが神依でなくとも──川の字の和やかな喜びなど長くは続かないものだと、父としての素戔鳴はもう知っていた。
「……また泣いたのね」
「……」
母としての櫛名田はそれでもやはり心が追いつかず、また明日からも変わらない……親子三人での生活が送れることをどこかで思い描いて、神依の腫れた瞼を労るように撫でてやるのだが、返された眼差しにはもう揺るぎない意志が宿っていた。
「……ごめんなさい」
「神依……」
水に墨を垂らしたようにじわりと、行灯の明かりが水面の瞳に滲む。
「私……鼠軼様に、急におつかいを頼まれてしまったんです。だから……」
「……」
「……淡島に、帰らないといけないんです」
「……神依」
今にもまた泣き出しそうな、涙を含んだ声で紡がれた言葉は、分かっていたとはいえ櫛名田の心を傷めるものだった。
目に映るのは、来た時よりは柔らかくなった春先の蕾のような髪と、寂しげな色を宿した妻の笑顔。
仕方ない。間に入っているのが神依でなくとも──川の字の和やかな喜びなど長くは続かないものだと、父としての素戔鳴はもう知っていた。
「……また泣いたのね」
「……」
母としての櫛名田はそれでもやはり心が追いつかず、また明日からも変わらない……親子三人での生活が送れることをどこかで思い描いて、神依の腫れた瞼を労るように撫でてやるのだが、返された眼差しにはもう揺るぎない意志が宿っていた。
「……ごめんなさい」
「神依……」
水に墨を垂らしたようにじわりと、行灯の明かりが水面の瞳に滲む。
「私……鼠軼様に、急におつかいを頼まれてしまったんです。だから……」
「……」
「……淡島に、帰らないといけないんです」
「……神依」
今にもまた泣き出しそうな、涙を含んだ声で紡がれた言葉は、分かっていたとはいえ櫛名田の心を傷めるものだった。

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