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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第19章 還るべき場所

 神依はふと顔を上げて、のろのろと緩慢に立ち上がった。
 遺された珠と歪な座布団を抱き、向かうのはもうしばらく触れていなかった文机。
 幾つかある引き出しのうち、一番小さくて一番下にある引き出しの暗闇に、神依はもうずっとその思い出の欠片をしまいこんでいた。
 今なぜかそれが無性に見たくなって、手に取りたくなって……でもそれをしてしまったら何か抗いがたいことが起きることも頭の片隅で理解して、それでも引き出しを開けずにはいられなかった。
 左手に握る珠の光は消えない。右手を後押しするように取っ手の場所を教えてくれる。
「……」
少し力をこめれば引き出しは何の抵抗もなく開いてくれた。
 そして、真っ先に神依の目に飛び込んできたのは、この闇にも決して滲まない虹色の光──あらゆる色を宿した、水晶の勾玉だった。
 「──……」
神依はそれを手に取りその場に座り込むと、淡島に流れ着いてからのことをずっと思い出していた。
 淡島での日々は、いつだってこの七色の光のように目まぐるしく美しく、けれども時に残酷に、その色を変えていった。
 それは移り変わる人の心の色そのもの──。
 だからこそ神依の心もその色を変え、良い時も悪い時も精一杯に過ごしてきた。
 良いことも悪いこともあった。たくさんの人に出会った。
 だけどそこには、良い人も悪い人もいなかった。いたのはただ、誰かを想い、誰かのために生きているだけの、一生懸命な人達。
「……、」
 (……駄目でもいい)
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