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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第19章 還るべき場所
竹林の小路の小さな兎神は、あの時、ちゃんとあの祠の中に隠れていてくれただろうか。
庭の池はもうすっかり子龍が治める水の国だった。よく悪戯をして鯉を驚かせていたけど、代わりに鯉を狙う鳥はいなくなった。
自分では名前も分からない木も草も、季節のうつろいだけは教えてくれた。
そして──神依はそれを眺め、いつも誰かを待っていた。日当たりのいいお気に入りの自分の部屋で、縁側で……お菓子を蜘蛛の女神と分けあって。綿から種を取ったり、糸を紡ぎながら、その男が現れるのを待っていた。
だけど。
だけど今。
……だけど今、あの人は、こんな私を許してくれるだろうか。
(…………日嗣様)
脳内で紡ぐにしてもあまりに不鮮明な、あるか無いか分からないような音がその名を形作り神依に伝える。
……あの頃に比べたら、髪もまだ全然伸びていない。肌には赤くなったり茶色くなったりした火傷の跡が、病にかかった葉のようにまだらな模様を描いてどうしようもなく残っている。
そして頬にも腰にも、そんなどうしようもない色を嘲笑うかのように鮮明に、別の男の腕に抱かれた証の印がある。
怖かった。
(だけど……)
だけど何か、大事なことを忘れていないだろうか。
庭の池はもうすっかり子龍が治める水の国だった。よく悪戯をして鯉を驚かせていたけど、代わりに鯉を狙う鳥はいなくなった。
自分では名前も分からない木も草も、季節のうつろいだけは教えてくれた。
そして──神依はそれを眺め、いつも誰かを待っていた。日当たりのいいお気に入りの自分の部屋で、縁側で……お菓子を蜘蛛の女神と分けあって。綿から種を取ったり、糸を紡ぎながら、その男が現れるのを待っていた。
だけど。
だけど今。
……だけど今、あの人は、こんな私を許してくれるだろうか。
(…………日嗣様)
脳内で紡ぐにしてもあまりに不鮮明な、あるか無いか分からないような音がその名を形作り神依に伝える。
……あの頃に比べたら、髪もまだ全然伸びていない。肌には赤くなったり茶色くなったりした火傷の跡が、病にかかった葉のようにまだらな模様を描いてどうしようもなく残っている。
そして頬にも腰にも、そんなどうしようもない色を嘲笑うかのように鮮明に、別の男の腕に抱かれた証の印がある。
怖かった。
(だけど……)
だけど何か、大事なことを忘れていないだろうか。

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