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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第19章 還るべき場所
そしてそれをぽかんと口を開いたまま、涙を拭うことすら忘れて眺めていた神依は、やがてゆっくりと、もう一度それを確かめるように、ぽつんと残された歪な座布団に視線を落とす。
「…………」
言葉は何も出てこなかった。余りに予想外で、一瞬で、ただ一人どこにもいけないまま、置いてきぼりを食らってしまった。
夜の国で見る白昼夢は唐突で、何度も何度も頭の中で鼠軼の声と言葉を思い出して、その存在が確かに在ったことを信じ込む。
手の中の珠を見れば、蝋燭の火を幾つも集めたような形の、純白の火が揺らいでいた。鼠軼の愛嬌たっぷりの、髭のように尾のように。だから、その火はこれっぽっちも怖くなかった。
その冷えた指先をじんわりと癒し暗闇を照らし出してくれる光は、ぽつりと一滴、神依の心の凪の海に、ある感情を落として水面を揺さぶる。
「──……帰り……たい……?」
私も、あの家に帰りたい。
神依はここに来て、初めてそう思った。
思ったら、何だかあの場所がとんでもなく幸せな場所だったような、そんな気がした。
あの家には、自分を悪く言う者や嫌いになる者はいなかった。いつだってみんな優しくて、禊も、童も、神様も……そんな隔たりを越えて、共に在れる気がした。
「…………」
言葉は何も出てこなかった。余りに予想外で、一瞬で、ただ一人どこにもいけないまま、置いてきぼりを食らってしまった。
夜の国で見る白昼夢は唐突で、何度も何度も頭の中で鼠軼の声と言葉を思い出して、その存在が確かに在ったことを信じ込む。
手の中の珠を見れば、蝋燭の火を幾つも集めたような形の、純白の火が揺らいでいた。鼠軼の愛嬌たっぷりの、髭のように尾のように。だから、その火はこれっぽっちも怖くなかった。
その冷えた指先をじんわりと癒し暗闇を照らし出してくれる光は、ぽつりと一滴、神依の心の凪の海に、ある感情を落として水面を揺さぶる。
「──……帰り……たい……?」
私も、あの家に帰りたい。
神依はここに来て、初めてそう思った。
思ったら、何だかあの場所がとんでもなく幸せな場所だったような、そんな気がした。
あの家には、自分を悪く言う者や嫌いになる者はいなかった。いつだってみんな優しくて、禊も、童も、神様も……そんな隔たりを越えて、共に在れる気がした。

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