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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第19章 還るべき場所
「安心せい、余が参った時には伍名が居った。あれも物言いがなよなよしくいけ好かん男ではあれ、芯はある。強固なものよりしなやかなものの方が折れぬものだ──後はきっと、万事上手くやりおったろう」
「……私……」
 途端に自分の中で廻り始めた何かに、神依は涙を拭うこともせず素戔鳴を見上げる。
 もうずっと、自分のことしか考えていなかった。それさえ放棄して、たった一枚の布団に閉じ籠って身を丸めていた。
 それを櫛名田は責めず待っていてくれたし、素戔鳴は布団を剥ぐ代わりに別のものを与えてくれた。
 全て奪われ、もう何もいらないと思ったのに。櫛一本に暴かれた思い出はもう一度神依を形作って、悪意にむしり取られた何かを思い興させてくれた。その奔流は目まぐるしく神依の中を駆け巡って、体の奥底で飛沫となって迸る。
 「私なにも覚えてなくて……。でも……ずっとみんなの声が聞こえていた気がするんです」
「今は言わぬがいい──日嗣のことはひとまず捨て置け。我が名と威光において、あれにもうぬにも悪いようにはせん。まあここはまた、豊葦原とも淡島とも違う時が流れておるから、まずはうぬが癒えるようゆるりと養生せい──甘ったれ」
「う」
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