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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第19章 還るべき場所
「いいえ。……あ、でも。……その前にあの人を見て、怖がるのはやめてあげてね。とても繊細な人なのよ、見掛けによらず」
 そんなふうに笑う櫛名田からは、確かに──素戔鳴に関して神依が洞主や伍名から聞いていたような、凄まじい暴神の片鱗は微塵も窺えない。
 それでもふと伍名から言われたことを思い出して、神依はそれ以上を問うのを辞めた。櫛名田が語ろうとした話も、遠ざかった男の影がちらついて、怖くて、今は考えたくはなかった。

 だがそうやって、櫛名田は居る間はひっきりなしにお喋りをしていた。よく笑う女性で、神依が必要以上に暗い気持ちにならないよう気遣ってくれていたのも分かった。けれど、どうしようもないこともある。
 記憶は全てが残っている訳ではなかったが、洞主や天照のことは覚えていたし、具体的に何をされたか分からなくても、恐かったり苦しかったり、悲しかったことは覚えている。
 痛みに、背を付けて眠ることもできない。まだ体を動かせない時分から、床(とこ)についていても目に入る、布の下の腕や胸元がどうなっているか考えるのは恐ろしかった。初めて神依が神依として意識を保ったまま、治療のために布を取った時は、何日も涙が止まらなかった。
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