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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第18章 垂る穂
 いずれにしても、躊躇も容赦も無い勢いのまま弾き飛ばされた鞘はその先にあった玻璃の細工を薙ぎ倒し襖絵を一線に裂いて突き破っており、そのまま薙がれた刃が当たれば神たる日嗣でさえ無事では済まなかっただろう。
 「……」
その美貌の神の突然の暴挙に広間は水を打ったようになり、また日嗣は頭から冷水を浴びせられたような心地で……先程とは違った、少しだけ“この場に在る”ようなうつつの感覚を取り戻して、月読を、天照を見上げた。
 (……今、俺は、……何を斬られたのだろう)
それは何かがすとんと戻ってきたような、不思議な感覚だった。自らを取り巻く空気も柔く、ふとあの……雨の中の神楽殿を思い出した。
 ふわ、ふわ、と覚束なく、けれども優しく振るわれる巫女の袖。それは幾重にも幾重にも薄く水を織った、羽衣のような空気感をもたらして……和やかに日嗣を包み、その感触を身に宿してくれる。
 しかしもうあの時のように、力任せにそれを貪るようなことはしたくない。できることならもう一度……、今度はあの、星空の藍のなか目一杯に抱きしめたように。黄葉の緋の中、甘美に唇を求め合った時のように、あの少女をこの胸に抱(いだ)きたかった。
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