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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第18章 垂る穂
 それは猿彦でさえ聞いたことのない、涙さえ含み、感情を剥き出しにした悲痛な男の訴えだった。
「ひ、日嗣……」
「孫……」
天照は自らがこの場に在ることさえ隠したいようにますますに縮こまり、日嗣の傍らに在った猿彦は苦々しく唇を歪める。
 いつも心を圧し潰して八衢の彼方を眺めていた友がようやく掴んだ縁(えにし)の糸。今度こそ結ばれると思ったのに。今度こそ……恋を知れると思ったのに。
 そう思えば、自らの姿に臆することなく、泣いたり笑ったり忙しなく表情を変えて側にあった少女の姿が次々と頭に浮かんできて、目頭が熱くなる。縁起でもねえとそれを振り払おうとするのだが、そう思えば思うほどに鮮明に、その笑顔が思い浮かんだ。
 しかしその痛ましい空気の中でも、素戔鳴はその尊大な笑みを崩さない。むしろ悪漢の役回りを楽しむようにまた大きく笑うと、芝居染みた物言いで日嗣に宣った。
「ふむ──そうか。そこまで申すか、愛(う)い孫よ。しかしそこまで申すなら、まあよかろう──」
「……?」
「──ならば迎えに来るといい」
「……は……?」
そして誰もが、耳を疑う。
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