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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第17章 父が歩んだ道
【2】
外界から閉ざされたその石室は、存外月読には居心地のいい場所だった。
不安定な灯は水面に映る月の如く、そしてその頼りない明かりを得て光る苔と、壁を揺らす水の影……冷涼な空気に反響するせせらぎと雫の音は耳障りも良く、思っていたような嫌な臭いもしない。
岩と岩の間から豊かに湧き出る水が裳裾を濡らすのだけが気になったが、穢いものではない。獣すらその鼻先を遠ざけるような透明度の高い清らかな水は、何者にも侵されず滔々と湧きいずる。
祭壇にはその水を湛えた水鏡があって、月読はその正面に立つと意図した訳でもなくその水に自らの姿を映した。
人は皆、この姿を見て美しいと言う。しかし言うのは容易い。美しい顔というのはただ、特徴も面白味も無い顔のことだ。
とは言え、それを己が口にしたところで聞く耳を持つ者はいない。並みの者にあっては嫌味にしか聞こえず、また女達は盲目であった。
そして唯一月読と並び立つ天照も、また女だった。
──あの童女も元の姿に戻ったとて、このように自らと同じ齢、同じような顔立ちをしているだけだというのに。
なお若々しく死より遠ざかろうとするその姿は、死生いずれの光をも宿す月読には自分さえ拒まれているように感じる。
外界から閉ざされたその石室は、存外月読には居心地のいい場所だった。
不安定な灯は水面に映る月の如く、そしてその頼りない明かりを得て光る苔と、壁を揺らす水の影……冷涼な空気に反響するせせらぎと雫の音は耳障りも良く、思っていたような嫌な臭いもしない。
岩と岩の間から豊かに湧き出る水が裳裾を濡らすのだけが気になったが、穢いものではない。獣すらその鼻先を遠ざけるような透明度の高い清らかな水は、何者にも侵されず滔々と湧きいずる。
祭壇にはその水を湛えた水鏡があって、月読はその正面に立つと意図した訳でもなくその水に自らの姿を映した。
人は皆、この姿を見て美しいと言う。しかし言うのは容易い。美しい顔というのはただ、特徴も面白味も無い顔のことだ。
とは言え、それを己が口にしたところで聞く耳を持つ者はいない。並みの者にあっては嫌味にしか聞こえず、また女達は盲目であった。
そして唯一月読と並び立つ天照も、また女だった。
──あの童女も元の姿に戻ったとて、このように自らと同じ齢、同じような顔立ちをしているだけだというのに。
なお若々しく死より遠ざかろうとするその姿は、死生いずれの光をも宿す月読には自分さえ拒まれているように感じる。

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