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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第17章 父が歩んだ道
けれどもそれを思った瞬間、神依はあることに気付いてうなだれるように目を伏せる。
 その、あらゆる慈悲深い言葉を紡いでくれた唇には、今日も綺麗に紅が引かれていた。優しく髪や頬を撫でてくれた爪先は、袖の若穂色に映える鮮やかな朱が塗られていた。
 自らの子供めいた、白い半円を描く爪とは違う。稚拙な言葉しか紡げぬ乾いた唇とは違う。
 一番最初から、彼女はそうだった。彼女の全てが物語っていた。
 きっと、多分……彼女もまた、決して完璧な母などではなく……未だ清ら過ぎるくらい清らな心を持った、けれどもそれ故に恋を爛れさせてしまった、ただ一人の「少女」だったのだ。
 女としての自分、洞主としての自分、母としての自分……その全ての境界を曖昧に身と心に混在させて、神依の前では努めて神依が望む姿で在ってくれた一人の女性。
 神依だけではなく、神々の前で、巫女達の前で、禊達の前で、そして恋慕う男の前で。
 それは──きっと神依も含め全ての女性が少なからずそうではあるだろうけれども、どれだけの心労を伴い、何の意味があるものだっただろう。
 何者かに成りきり、偽りを纏う姿を好いてもらうことに何の意味があるのか問いたい自分がいる。
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