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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第15章 文枕
 しかし猿彦はそんな神依の前に、その可愛い箱の上に、ばさりと紙の束を置いてみせる。先程、この文箱の座布団となっていた厚い厚い紙の束。よく見るとそれは、うっすらと墨が透けていた。神依には読めなかったが、玻璃に滴る水のように穏やかな流れの文字。
「これは……これも、文?」
「ああ、そうだ。これは孫が途中で筆を止めちまったやつ。すごい量だろ」
「……はい」
見上げれば、猿彦は少し呆れたようにばさばさとそれを振ってみせた。確かにそれは、紙一枚の薄さを考えればすごい量だった。それこそ布でくるめば枕にでもできそうな、それほどの厚みを持った紙の束。
「でもこれは見せるだけな。孫にも内緒で持ち出してきたから、また内緒で戻してこないといけねーんだ。だけど、神依にはちゃんと知って欲しかった。これは孫が、お前のために使った時間の全部だって。お前を想ってた時間だって、知って欲しかった。一日中机に向かって、墨を擦って紙を選んで──ああ、チビ。チビなら分かるだろ。これは、玉を造るのと一緒だ」
「玉造り……?」
神依が問うように童の方を見れば、童は少しだけ考え、それからゆっくりと頷いて神依を見上げた。
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