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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第15章 文枕
だがその洞主の言葉は、今の神依には何だかとても申し訳ないような気がしてしまった。
あんなに喜んでくれていたのに、こんなに親身になってくれているのに、この朱印は本当は妻問いの証ではない。自分は相変わらずこちらに流れ着いた時のままで、洞主の言う“淡島の巫女”にも──“女”にも成りきれていない。そして何より、この朱印とは別に想い人がいて──。
それを秘めるのにもいちいち罪悪感がつきまとって、心の中がもやもやとした。視線を下げた先にはせっかく出してくれた特別な杯があって、ますますに神依の眉や肩はハの字を作る。そしてまたそれに気付いた玉衣も、笑みを困ったものに変えると神依の頬を──月読の朱印を、優しく手のひらで包んだ。
「……何か他に、憂え事があるようだね。私の可愛い娘巫女」
「──洞主様……私──」
神依はそれに甘え、胸の内を告げようと唇を開く。しかしその瞬間、玉衣は神妙そうに首を横に振り、それを留めた。
「今はこの天つ男神が司る夜の国。滅多なことを口に致してはならぬ……そなたには信じられぬやもしれぬが、その神は時折暴威を振るわれる。今のまま、何も知らず何も想わず、深き愛情を戴き身を委ねておうた方が、そなたには幸せじゃ」
あんなに喜んでくれていたのに、こんなに親身になってくれているのに、この朱印は本当は妻問いの証ではない。自分は相変わらずこちらに流れ着いた時のままで、洞主の言う“淡島の巫女”にも──“女”にも成りきれていない。そして何より、この朱印とは別に想い人がいて──。
それを秘めるのにもいちいち罪悪感がつきまとって、心の中がもやもやとした。視線を下げた先にはせっかく出してくれた特別な杯があって、ますますに神依の眉や肩はハの字を作る。そしてまたそれに気付いた玉衣も、笑みを困ったものに変えると神依の頬を──月読の朱印を、優しく手のひらで包んだ。
「……何か他に、憂え事があるようだね。私の可愛い娘巫女」
「──洞主様……私──」
神依はそれに甘え、胸の内を告げようと唇を開く。しかしその瞬間、玉衣は神妙そうに首を横に振り、それを留めた。
「今はこの天つ男神が司る夜の国。滅多なことを口に致してはならぬ……そなたには信じられぬやもしれぬが、その神は時折暴威を振るわれる。今のまま、何も知らず何も想わず、深き愛情を戴き身を委ねておうた方が、そなたには幸せじゃ」

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