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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第15章 文枕
【2】

 その日の晩、玉衣はそわそわとその部屋の中で行ったり来たりを繰り返していた。
 昼間、神依を訪ねた大兄は神妙そうな顔で奥社に戻ってきた。話を聞くに、ついにあの娘巫女が男神と契りを交わしたのだという。それも、世界の理を司る三貴子の一柱──月読命と。
 それはそれは過分な程の寵愛で、ゆくゆくは間違いなく高天原に召し上げられるだろうとの話だった。そして少女の頬には、あたかもそれを世に顕示するように男神の朱印が刻まれているという。
 月読命は時折荒々しく暴威を振るうが、まさかそうまでした娘の前で粗暴な振る舞いもなさるまいと、玉衣は微かに唇の端を上げた。
 (思えば私も、昔はよくそういう話で盛り上がった)
どれほど熱っぽく見つめられて身の内を溶かされたか、どんな愛の囁きに体の芯を痺れさせたか、……その先の、蜂蜜のようにとろけた時間のことさえ密やかに、けれども誇らしげに語り合った。花は鮮やかな花弁を誇ってこその花。ただ美しくあって、愛でてくれる目と手に傲ればいい。
 けれど──
(あの子は、話してはくれぬだろうな──)
恥ずかしがって、視線をあちこちに遊ばせながら慌てる様が今から頭の中に思い浮かぶ。
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