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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第15章 文枕
 「……結局俺はまた、何もしてやれないのか」
「……いや、ンなことも無ェさ。まあとりあえず部屋を片付けろ。話はそれからだ」
何か思い悩むようにうつむき、ようやく口を開いたかと思えば沈んだ声で自責する友に、猿彦はからから笑い肩越しに文机を指す。
 その先にあったのは、この荒らされた部屋で唯一整然と保たれたままの硯箱(すずりばこ)。
 いくら癇癪を起こしても文宝四宝を護る分別はあったらしく、日嗣はそれを見ながらあの夢を思い出していた。
 夢の中の自分が願っていたこと。それはただ隣に在って互いの温かさに触れ、何かを語ったり分かち合ったり……遠くに在る時は互いを想って文をしたためたり、思い描いた姿や声に焦がれて夢でさえ会えることを願ったり……、そんな些細なこと。
 けれど今はそれだけでいい。それが今の自分に必要なこと全てで、それを既に自分の心が得ていたことに気付いた日嗣はようやく微かに笑み、頷いた。
「いいか、恋文ってのは真夜中に書くんだぞ。そんで一度封をしたら二度と中身を見ず、そのまま俺に預けろ」
「なんだそれは……」
「いいから言う通りにしとけって。……おい、まさかコレも持ち出し厳禁だなんて言わねえよな?」
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