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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第14章 墨染めの恋
「……あなたに人を愛するなど、できようはずもない」
「お前にそれを言われるのは心外だ……ならばいっそ、神依で試してみせようか。どこぞの青二才の稚戯より好いと、お前の前で腰を振らせながら言わせてやろう。そしていずれ、自らの宝よりも私の精を胎(はら)に収めることが肝要になるよう、仕込んでやる」
「……神依の……宝?」
「……ほう。……まさかお前は、知らぬと申すか」
その聞き覚えも心当たりもない無い言葉に日嗣が訝しげに眉を動かせば、月読はそれをからかうように器用に片方の眉を上げ、くわえていた管を置く。
「話のついでだ、お前にいいものを見せてやる……」
「……」
 ──どうせ、ろくな物じゃない。
 そうして目と唇とに弧月を浮かべ、美しくも残虐な笑みで見上げてくる男神に日嗣はなお眉をしかめて嫌悪の眼差しを返す。
 しかし次の瞬間、
「それは──」
袖口から取り出され、まるで愛玩動物を誘うかのように揺らされる一本の櫛に……日嗣はびくりと体を震わせ、一度は鋭く細めたはずの目を一気に見開いた。
 「お前にも見覚えがあろう……本当にお前達は、こんなもの一つで私を延々と楽しませてくれる」
「何故……それを」
月読が取り出したそれは間違いなく、自分が神依に贈ったはずの小菊のつげ櫛。もう本当に長い長い間声の掛からなかった職人達が、櫛はもちろん箱も袋も、天孫の想いを酌んで意匠を凝らし、朗らかに献上してくれたもの──。
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