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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第14章 墨染めの恋
【4】

 深い森に囲まれた月神の住まうその宮は、外の世界とは異なり既に夜の様相を成していた。
 ゆらゆらと篝火に照らし出される白木の社は雪の夜のように不安定な色を作り、また音を吸い込んでいるかのように静謐な刻を空気に混ぜる。天照の住まう神宮と対極の位置にあるその広大な月讀宮(つくよみのみや)は、昼夜が逆転したような異質な世界だった。
 事実、この宮に勤める者達の中には主に倣い、昼を眠って過ごし宵に起き出し活動する者も多い。故に今はそこを行く日嗣の足音だけが生命の音で、衛士らも無言のまま微動だにせず佇み、とどめることのできない高位の客人を見送った。
 それはまるで、動く死体か生きた蝋人形かのように見えて……そんな一種独特な雰囲気を醸し出すこの宮は、祖母の坐す神宮と同じくらい日嗣に取って居心地の悪い場所だった。

***

 「──大叔父上……!」
日嗣が月読の居室まで押し入った時、月読はやはり褥に寝そべり、しとけない姿で水煙草を吸っていた。
 朧げな灯りの元、華奢な細工に星の瞬きを映す小さな瑠璃硝子の器、管を弄ぶ様は男の目から見ても粋と艶が入り雑じり、ますますに性の境界をぼかしている。
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