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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第14章 墨染めの恋
 それに少し気恥ずかしさや居心地の悪さを感じているのか、また赤頭をかく猿彦に、神依もまた柔らかい笑みと共に頭を下げた。
 それは月読にした時とは違う。その顔の先にはこれからいつだって、命の円環を宿した土と行く先を示してくれる道がある。
 淡島の巫女として神を信じるとは、こういうことかもしれなかった。ただ花や酒を捧げるだけではない。身を委ねるだけではない。その対価として愛を貰うのではなく、自らも真摯に向き合い、その存在を……魂を見つめて、心を交わして、契りを結ぶ。
 その契りが肉体でなされるものであっても言葉でなされるものであってもそこには互いを慈しむ情愛が必要で、それが無ければ神も人も本当には満たされない。
 「……ありがとうございます。……猿田毘古様」
だから、そのありきたりな、けれどもそれしかない感謝の言葉に万感の想いを乗せて声を紡げば、猿彦は確かにそれを受け取って唇に笑みを刻んでくれた。
 想う妻神がいる猿彦は淡島の巫女の元には降らない。朱印は刻まない。けれどもそれは確かに、神と巫女との特別な関係だった。
 神依の頬を、一陣の優しい風が撫でてくれる。そしてそれに促され再び顔を上げたその瞬間には、もう猿彦は姿をかき消していた。
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