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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第14章 墨染めの恋
 なのに今はそれら全てが失せて、一気に廃墟と化したかのように思えた。そしてその錯覚を後押しするように、蜘蛛の糸が木々の枝先や竹垣に絡まり、末を風に遊ばせている。
 「──見ろ、孫」
「……!」
更に友に促された方を見れば、そこには無惨に破壊された屋敷神の祠が佇んでいた。
 祠に近付いた猿彦はその太刀筋が結界を斬ったものだと気付き、面の下で眉を寄せる。一方日嗣は、視界の中に一ヶ所だけ開いている雨戸を見付け……その奥の暗闇に、得体の知れない恐怖を感じながらそちらへ向かった。
 (神依……)
いつも神依が迎えてくれる縁側はひんやりと冷たく、軒先の小さな神棚にもあの女神の気配は感じられなかった。
 何か、悪い異変があったのはもう間違いない。しかし……それを確かめるのも怖い。
(だが……)
 “……貴方はいつも、人を愛する覚悟が足りない。”
(……行かない訳にはいかない)
 たとえ幻覚であっても妄想であっても……確かに一度は捧げられた神婚の贄。あのハレの日の光景をもう一度、今度はこの世界で見ることができたなら。
 あの清廉な娘を……この腕に抱きしめ、胸に寄せることができたなら。
「……」
そう思って日嗣はゆっくりと、雨戸に触れる。
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