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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第14章 墨染めの恋
 それはかつて、洞主に迫った時とも異なる恫喝だった。心を寄せず寄せ付けない、理性ある凍てついた覇気ではなく──ただ雄としての憤怒と嫉妬に任せた、乱暴な恫喝。
 ──あの御霊祭の夜、確かに日嗣も一度はそれを想った。もしもこの神に召し上げられれば、神依もその従者達も今と変わらぬ幸せを得ることができると思った。
 伍名は既に数多の妻を持ち、子も今なおその数を増やしている。そして妻巫女達は正妻たる女神を敬い自ららの頂点に据え、例え伍名が訪れる日が無くとも、子を抱き幸せを噛みしめ、時に女同士お喋りをして心を交わす──そんな和やかな共同体を形成しているから、そこならば神依も辛い思いをすることなく過ごせると思った。
 或いは寂しさを紛らすに、自らの従者と睦んだとて伍名は何も責めないだろう。それは無関心でも薄情でもなく、それさえ受け入れ女を愛せるだけの、度量があるのだ。それはもしかしたら、あの禊の幸せにも繋がるかもしれない。
 だが──あの夜、神依はその虚像さえかき消すような、絹の言葉を紡いで差し出してくれたのだ。それはまるで華奢な紙風船をふくらませて手渡してくれるような、本当に柔らかく、脆く、大切に扱わなければいけないものだったけれど。
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