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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第12章 天津水
 日嗣はこの何も持たないはずの青年から、あらゆるものを奪うことができるのだから。
 「……あれは」
「……」
「……お前の主は、どうしている」
「……」
上手く言葉が紡げない。それでも禊の前に立ち、返っては来ない眼差しを待つ。
「……お前達の祈りは、俺にも……彦にも届いている。……あれを貶めるような、悪意ある噂が広まっているのも知っている」
「……」
「……俺はお前達に、何をしてやれる? ……俺の神たる力など、微々たるものだ。そしてそのおおよそは、この雨雲の上にある日の威光を借りたものに過ぎない。……では俺はどうすれば、あの娘を淀の中からすくってやれる?」
「……」
 傘に阻まれ、日嗣から禊の表情を窺うことはできない。それでも……その雰囲気が、一層強張っていくのが分かった。
「……何故」
「……?」
ややあって、乾いた声が足元から返ってくる。
「……何故貴方様が、それを私にお尋ねになるのですか……」
「……」
そしてその言葉には、青年のあらゆる感情がこもっているようで──日嗣はそれにどうしようもなく、自分の方が頭を垂れたい気分になった。
「すまない……」
「……」
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