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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第12章 天津水
 御令孫も日嗣も、そのどちらもが心に重責を負わせる文字ではあるが……それでも名を呼ばれないと、自分の存在が稀薄になるような──ぽかんと宙に投げ出されるような、不思議な気持ちになる。
 (今となってはたった一人……何も知らず、何にも憚らず、ただ俺を俺として顕してくれる……唯一の巫女)
そう思えば、心の奥でさわりと何かが動くのを感じた。
 それはまるで春の風のようにこそばゆく、また眠りから醒めて蠢く爬虫類のように──おぞましい。
(……みより……神依)
 ──あれが欲しい。
欲しくて堪らない、と日嗣の意識の奥で何かがざわめき始める。
 「……っ」
それを自覚した日嗣は顔を歪め、その蠢きを抑え付けるように自らの胸ぐらをぐしゃりと鷲掴みにした。
 臆病で、幼い心にはあまりにも不釣り合いな──傲り昂る天津神の魂。それはそのまま、日嗣の罪そのものだった。暴慢な獣欲に呑まれ、二柱の女神を傷付けた。
 自分のもののはずなのに未だに昇華も制御もできない、心と上手く練り合わせることができない……ちぐはぐなもの。
 それは猿彦の言葉を借りて、日嗣に新たな罪を唆す。
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