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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第12章 天津水
 その殻と名ばかり立派な“御令孫”である自分と、虚ろで何の才も無い、中身の伴わない自分との差が情けなくて、涙さえ出てくる気がする。
 それなのに何故、巫女達は視界を曇らせ恋に惑うのか。愛を迫り、衣を裂かんばかりに爪を立てて……変わってしまうのか。考えれば考えるほど日嗣は全身が痛むような、そんな心地になった。
 あの娘もそうなるのだろうかと、あらかじめ痛みに慣れるようにその爛れた姿を想像してみるが……、それは幸いにも、まだ世界に混ざり切れていない未熟さが阻んでくれた。頭に浮かんだのは、怯えたように謝罪の言葉を紡ぐ顔と、八衢の岩の台座で見た呆けた顔だけ。
 (……阿呆面だな)
そう思うのと同時に、ふっと笑いがこみ上げてきた。この世界で、日嗣を前にあんな顔をする者はいない。それは確かに特別なことではあったが……色恋の話をするには余りに色気がない。
 「……」
しかし、逆にそれが心地好いのかもしれない。
 生まれも地位も容姿も、考え付く限りあらゆる事物に完璧に恵まれた“御令孫”ではなく……そういう虚ろな冠をすべて取り払って、ただ一柱の神として“日嗣”様と呼んでくれる者もまた、あの少女だけだ。
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