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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第12章 天津水
 それを合図に近付いてくる、ざくざくと白石を踏む音。それに合わせて、巫女達は物も言えずじりじりと後ずさった。
 「……」
その場にただ一人残された私の視界に、男の足が入り込む。
 ──誰?
 禊や、覡(おかんなぎ)ではない。その衣の裾は金の糸で凝った意匠が縫われ、染め付けも鮮やかに夏の日射しに浮かび上がっていた。
 ……神様。
ようやくそれに思い至った私は、おそるおそる顔を上げる。
 背の高い美丈夫。濡れ色を含んだ黒髪の向こうには、逆光にも分かる、光をそのまま玉の形に丸めたような玲瓏な黄金の瞳。すらりと通った鼻筋に、結ばれた唇は女のものより形良く……頑なな様をしているのに、何故か私には色めいて見えた。
 風を孕む夏衣から、いい香りがする。誰もが使えるわけではない、特別な香の香り。
 (……ご、れい……そん。……御令孫……!)
私は一目で、それが誰だか理解した。
 そして巫女達が物言わぬのは、自分達の悪事を見咎められた以上に、男神の纏う覇気とその凛々しさ、美しさに気圧され、或いは見惚れてしまっているからなのだと分かった。

***

 「……」
ふと、寒さに目を覚ました。
 寒い?
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