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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第12章 天津水
 どの程度薄めてあったか知らないが、もしもあれを肌に──ましてや女陰などに塗られていたらどうなっていたのだろう。だからそれを知った禊などは、しばらく何があっても私から離れようとしなかったのだが──。
 「──何をしている」
その、涼やかな男の声が響いたのは──刷毛を持つ手が伸びてきた、まさにその時だった。
 張りのある、だけどどこか……怒りを含んだ声。そして自分の価値を知り、それを疑うことのない──ある種の自信に満ちた、男の声。あれだけうるさかった蝉の声が恥じらうようにぴたりと止んで、その男の存在を際立たせる。
 私を取り囲んでいた巫女達も雷に撃たれたようにその動きを止め、暑さに赤らんでいた頬を真っ白にして意味の無い言葉を紡いでいた。
 そもそも、まさかこんなところに人がいるなど思いもしなかったのだろう。
 私は助かったという安堵感と、少しだけ「ざまあみろ」という気持ちとで体の力を抜いた。
 私を拘束していた巫女の手は、もう何の力も入っていなかった。そして私も、心で思っていたより体はずっと怖がっていたようで、その場にへたりこんでしまった。
 同じように力の抜けた巫女の手から器が落ち、すぐ横に液が溢れる。
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