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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第12章 天津水
 一ノ兄、と小さく呟く童の声に、神依は今度こそ立ち上がり禊の体に抱きついた。
「──馬鹿ぁ……っ!」
「……神依様」
相変わらず幼い罵り言葉しか知らないまま抱きついてくる主に、禊は御霊祭の後のように優しくその背を撫でる。
 膝立ちで、母親が子供を抱くように胸元に抱き寄せられて、その高みに在って無条件に涙を溢してくれることが……愛情の欠片を見せてくれることが、今の禊にはこの上ない……極上の喜びだった。
 「……一時は神々を恨みました。ですが、伍名様はそんな私にも慈悲を与えて下さいました。あのお方が大地の神と言うなら、私はこれから先も貴女のために、その土に額を擦り唇を触れさせましょう。
ですからどうぞ、貴女は貴女の想う方の元へ、秋津のように駆けていって下さい。私はあの稲穂の神が厭いてくれるまで、何百年何千年でも貴女を待ち続けます。……そしてここまで申し上げたのですから、駄目だった時は責任を取って潔く、私の伴侶となって下さい」
「……ばか……」
不意に口調がいつもと同じ皮肉めいた物言いに変わって、神依は思わず笑ってしまった。それでも涙は溢れてきて、背の手に甘えてこぼせるだけの涙をこぼす。
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