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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第10章 身寄り
 それから神依の持つ底を塗らす程度の盃に並々と甘い酒を足すと、更に懐から小さな薬包を取り出し無言のままにさらさらと中の粉を流し入れた。粉は酒に溶け、ゆらりと糸のような水筋をその水面に滲ませる。
「伍名様……?」
神依は何をされたか分からず、不思議そうに盃と神とを見比べては名を呟き問いに変える。
 しかし伍名は答えず、違う言葉を紡いだ。
「まずは……そうだな。御令孫の朱印を、見せてもらえるかな」
「……、」
 その言葉に、神依と禊は視線を交わし互いに是非を問う。
 (……どうしよう)
神依は、少し怖かった。
 妻問いではないと、言葉で言われても信じきることはできない。例え目の前に在るのが、猿彦が信頼を寄せる気性穏やかなる神だとしても、その魂が荒ぶれば何をされるか分からない。そして──そしてそれを、ここに在る誰もが制止することはできないだろう。
 巫女として逆らえ得ずとも、禍津霊の一方的なそれは陵辱であったし、雨の日、神楽殿──あの時の日嗣は、その荒ぶる御霊は神依の言葉を聞き入れてはくれなかった。
 何も邪魔するものが無ければ……末は、きっと同じだっただろう。
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