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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第9章 穂向け
 もう、絶対に手放したくない。餓えて餓えて、ようやく……その一雫の価値が分かった。
 天孫たる己がなぜあんなにも必死になって手を伸ばしたか、求めたか、名を呼んだか、ようやく分かった。魂が無意識に繋ぎとめようとしていたものを、心と頭がようやく理解してくれた。
 こんなになるまで分からない自分は、本当に……愚かだった。そしてこんなに格好悪い姿を見せられる相手がいることは、本当に幸いなことだった。
 神も巫女も関係なく──人として。
 (……日嗣様)
自分を抱きしめる男が、自分の見られないところで涙を流していることに気付いた神依は、今度は拒まず、自らも男の背を抱く。
 自分の方が背が高ければもっと素直に泣かせてあげられたかもしれないのに、とも思ったが、それだけはどんなに頑張っても叶わない。禊がしてくれたように、ただそれを受け入れ優しく待てば、余計に強くなる体の圧迫感にその分だけ安堵した。
 (ちょっと苦しいけど)
嬉しかった。
 肩を濡らす水は、きっと今日見た全ての水の中で一番美しく、一番醜く、一番意味のあるもの。
 ようやく泣けたのなら……それで良かった。
 「……お前も、神楽殿でした約束を忘れてはいないだろうな」
「約束?」
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