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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第9章 穂向け
 もう、過去を知られていようが知られていまいがどちらでも良かった。
 例えば、我が子を殺した始父のように……剣のような振る舞いしかできぬ自分に、今までたくさんの女達の心魂の血を流させた自分に、それを拭う柔らかな絹の言葉を編んでくれたことが嬉しかった。
 ただ目眩ましのような愛と善を、押し付けるように身にすがりつかれたなら、きっとまた自分はこの娘の純な魂を殺してしまっていた。見えない血で、汚してしまっていた。
 もう、嫌だった。何も持たない、殻だけの虚ろな自分のために、女達の美しい魂が骸になっていくことが嫌だった。なら近付かせなければいいと更にその刃を鋭くしても、今度はその金剛石の如き輝きが女達の目を白く曇らす。
 どうしていいか、日嗣にも分からなかった。
 そして分からないまま、永遠にも近い神たる時をたった一人、自ら埋めた淀に身動きもできず、亡者にすがりつかれ、火と日に焼かれ……。
 しかしそれを拒む資格すらない自分のために少女は惑い、それでも一生懸命手で水をすくって差し出してくれた。それが、自分の元に辿り着くまで半分に減っていても、雫ほどしか残っていなくても……それでも、今の自分には、それが一番欲しいものだった。
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