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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第9章 穂向け
 それが、落ちないようにとか風から庇うためとか、そんな万人に与えられる優しさでも。
 神依にはそれでも良かった。
 恐ろしい程に冷たく美しかった星海も、二人なら怖くない。すう、と自然に体から力が抜けた。
 そしてそれを感じた日嗣もまた……もう少しだけ、その小さな体を抱き寄せる。
 その遠慮がちな仕草とぎこちなさは、日嗣の喜びと不安の表れだった。ただ今だけはと、歪な心がその柔らかさを求める。
 先程月読が言ったことが少し分かったような気がした。ただ、やはり自分と大叔父は違う。手で弄んで壊してしまうのは怖い。けれど見ているだけでは耐えられない──。
 欲しいのに、触れられない。精巧で華奢な、硝子細工を扱うような心地だった。
 (……ふたりぼっちだ)
その壊れそうな雰囲気の中で神依は思う。きっとまた、誰にも言ってはいけない時間。嬉しくて、切なくて、不安で、幸せで。誰にも祝福されない、自分達だけが特別な時間。
 それを何と呼ぶのか、しかし神依は口にはしなかった。それを口にすれば、色褪せた水滴になって消えてしまうような気がした。
 それが甘えでも、わがままでも……。今だけは……綺麗なまま、小さな心の小箱にしまっておきたかった。
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