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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第9章 穂向け
 池の周りには一層若々しい木々が生い茂り、底には星と水晶が敷き詰められ、その明かりが周囲の色をわずかに戻している。地は細い川に侵食されながらも進貢の広場の名残であった石畳がほんの少し残っており……その隙間からは雑草ではなく、青々とした、まだ若い稲穂が点々と伸びていた。
「……」
神依は何も言わず長く息を吐く。そして沈黙の中で、ある楽の音を聞いた。
「──鈴の音がする」
「……ああ」
水が揺らぐ度、しゃらん……と穏やかな鈴の音が微かに聞こえる。それが何か分かった時、ああ、と神依の口から息が漏れた。
 そして瞬きの時をおいて、それに誘われるように水面が盛り上がる。
「え?」
「神依」
驚いて後ずさる神依の肩を日嗣が後ろで抱き留め、静かに大丈夫だと空気で諭す。二人の前でうねる、幾重にも繋がる白銀の鱗と白い腹。それはやがて伸びやかに、一本の柱として神依の前に姿を見せた。
 「──あなたは……」
立派な角に長い髭。黒い瞳だけは変わらない。腕に巻き付いていた子龍は驚いたように神依と日嗣の体の隙間に隠れ、それを見た巨きな龍は柔らかく目を細めた。
『……』
龍はそのまま、神依程度なら呑み干せる程の頭(かしら)を親愛を示すように下げる。
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