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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第9章 穂向け
 思考の幻の中にある光景でさえ、ぼんやりとやりきれない。
 月読が言った通り今の自分にそれを望む資格が無いことが──ただただやるせなかった。
 (……)
……夜も、もう遅い時間だった。朱の楼閣の方は未だに明々としている。眼下の雲も、今日は白々と明るい。
(目は……覚めたのだろうか)
体は大丈夫なのだろうか。従者達はまだ起きているかもしれないが──
 「……」
いつも手の一振りで、どこへでも導いてくれる猿彦はいない。だから日嗣は、今ばかりは自らの足で陛を降っていく。
 その背を二柱の神が眺めていたが、その表情は対極に異なるものだった。

***

 「……ん」
神依が子龍の声に目を覚ましたのは午前も過ぎた頃だった。
 いつもはお気に入りのカゴか神依の胸や腹の上で眠る子龍なのだが……今日は寝着を咬んだり髪を引っ張ったり、やけに粘ってくる。
(どうしたんだろう)
禊や童達ももう休んでいるだろう。特に禊は眠る時間も短そうなので、起こしたくはない。
(なんか、すごい寝ちゃった……)
神依は体を起こして欠伸をすると、枕元に置かれていた水差しと椀で乾いた口をすすぎ……子龍に導かれるまま、庭に面した縁側に向かった。
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