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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第9章 穂向け
寝ぼけたような目で姿を認め、とぼけたような声で名を読んでくれた神依に禊も大きく安堵の息を吐き、童もへたりとその隣に座る。
 まだどこか夢の世界にいるような、ぼうっとした眼差しのまま起き上がろうとする主を支え、禊は片手で器用に水差しや椀を調える。少し含ませてやれば、乾いた声もその分だけ潤った。
「禊……笛の音が」
「まだお休みになっていて下さい。貴女には、休息が必要です」
「でも……」
再び褥に寝かされ、神依は不思議そうに禊を見上げる。
「……」
だが確かに、言われてみればなんだかすごく眠い。体がだるい。このままもう一度瞼を閉じてしまいたいのだが──
 ──何か大事なことを忘れていないだろうか。
 思い返すように胸元に手をやれば、指先が何か冷たいものに触れた。つやつやの石。なめらかな曲線……勾玉。
「……あ──」
そしてそれを認識した瞬間に、神依の脳裏にある光景が過った。
 石畳の雑草、落ちた神楽鈴、もつれた五色布──首の無い龍。
 それで神依は一気にその意識を覚醒させ、食らいつかんばかりに禊の腕を掴み無理矢理体を起こした。
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