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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第22章 天孫降臨
と、そこまで言い掛けた時、日嗣は目の前の泥塊(でいかい)が蠢くのを感じた。
赤いほおずきを核に、油と火をまぶしたような瞳が一斉にこちらを向く。細い声を長く長く空に燻らせ、それを形にしたようにゆらゆらと頭を揺らして。
池からとめどなく溢れる泥は意思を持つかのようにじわじわと地を這い、世界を食みながら徐々にこちらへにじりよってくる。そしてその邪な禍津神はただひたすらに背後の女を求め、圧倒的な神威と殺意とで狭間に在る日嗣を嚇(おど)した。神依を怯えさせたのと同じ、死という恐怖をもって。
女を差し出すか、抗って殺されるか。
確かにその選択は、並みの神ならばその精神を蝕むのに充分だったかもしれない。だが、日嗣には既に対峙した恐怖だった。女か男かそれだけの違いで、そして目の前にあるのが男であるならば、女ほど苦手なものではなかった。
それが何故か面白くて、日嗣は軽く笑む。こんな些細なことが余裕に繋がる情けなさこそ、自分らしい。それから自らが携えていた垂飾品から手探りで鏡の欠片を取り上げると、急ぎ刃で紐を裁ち神依の手に押し込めた。
「神依、これを。お祖母様の形代にもなる神器の欠片だ。きっとお前を護ってくれる」
「天照様?」
赤いほおずきを核に、油と火をまぶしたような瞳が一斉にこちらを向く。細い声を長く長く空に燻らせ、それを形にしたようにゆらゆらと頭を揺らして。
池からとめどなく溢れる泥は意思を持つかのようにじわじわと地を這い、世界を食みながら徐々にこちらへにじりよってくる。そしてその邪な禍津神はただひたすらに背後の女を求め、圧倒的な神威と殺意とで狭間に在る日嗣を嚇(おど)した。神依を怯えさせたのと同じ、死という恐怖をもって。
女を差し出すか、抗って殺されるか。
確かにその選択は、並みの神ならばその精神を蝕むのに充分だったかもしれない。だが、日嗣には既に対峙した恐怖だった。女か男かそれだけの違いで、そして目の前にあるのが男であるならば、女ほど苦手なものではなかった。
それが何故か面白くて、日嗣は軽く笑む。こんな些細なことが余裕に繋がる情けなさこそ、自分らしい。それから自らが携えていた垂飾品から手探りで鏡の欠片を取り上げると、急ぎ刃で紐を裁ち神依の手に押し込めた。
「神依、これを。お祖母様の形代にもなる神器の欠片だ。きっとお前を護ってくれる」
「天照様?」

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