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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第22章 天孫降臨
けれど振り向くこともできない。もはや薄紙一枚の光すら透さない──山のような深黒の影は二人の視線をも吸い込み、圧倒的な威を誇ってそこに存在していた。
長くのたうつ首と尾は狂ったように水を巻き上げ、ただ無味に回り続けていただけの金属の蛇まで呑み喰らう。そして音を出す何もかもが水と闇の腹に失せたとき、一本の頭が空に向かって長く長く咆哮した。そればかりは夏の蔓植物のようにしなやかに、澄んだ獣のような声で。残された頭達もそれに倣って、顎(あぎと)を裂かんばかりに開いて吼えた。
日嗣にはひどく見覚えのある光景。龍が天動を起こす予兆。
幾つも織り重なって響く声は雅楽の如く、どこか不安定な浮遊感を帯びながらも妙なる調べを持って伸びに伸び、天はすぐにそれに応えた。
常夜の雲は今ここにのさばっていることを詫びるかのように薄い雨を滴らせ、その合間から乞うようなか細い光を散り散りに垂らす。そしてそれは、夜に慣れ過ぎた世界に色を差し戻した。
冬の夕間暮れのような、酔いそうな色。
「ひ……」
けれども神依は、その光と影の狭間で目にした大蛇の姿に知らず知らず口を覆い喉を震わせた。
長くのたうつ首と尾は狂ったように水を巻き上げ、ただ無味に回り続けていただけの金属の蛇まで呑み喰らう。そして音を出す何もかもが水と闇の腹に失せたとき、一本の頭が空に向かって長く長く咆哮した。そればかりは夏の蔓植物のようにしなやかに、澄んだ獣のような声で。残された頭達もそれに倣って、顎(あぎと)を裂かんばかりに開いて吼えた。
日嗣にはひどく見覚えのある光景。龍が天動を起こす予兆。
幾つも織り重なって響く声は雅楽の如く、どこか不安定な浮遊感を帯びながらも妙なる調べを持って伸びに伸び、天はすぐにそれに応えた。
常夜の雲は今ここにのさばっていることを詫びるかのように薄い雨を滴らせ、その合間から乞うようなか細い光を散り散りに垂らす。そしてそれは、夜に慣れ過ぎた世界に色を差し戻した。
冬の夕間暮れのような、酔いそうな色。
「ひ……」
けれども神依は、その光と影の狭間で目にした大蛇の姿に知らず知らず口を覆い喉を震わせた。

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