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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第22章 天孫降臨
「……甘い匂いがする。お前は、こんな世界でも風呂に浸かっていたのか」
「──もう──他に言うこと、無いんですか」
泣き笑いのまま膨らませられた頬に残る、自分のものではない朱印。けれど今は、それすらいとおしく思える。
頬を抱いた親指で今にもこぼれ落ちそうな涙を拭ってやれば、潤んだ瞳と視線が一直線に重なって、日嗣は堪らずもう一度神依を抱き寄せた。
この娘はこんなにも華奢なものだったろうか。それでいてしなやかな感触もあったが、今はそれより外套や旅荷、見慣れぬ比礼(ひれ)が邪魔ったい。その向こうにあるはずの、女の生の肉体との隔たりが少しでも減ればいいのにと、指を立てて強く強く抱いた。
けれど神依もそれを拒まず、体一杯に感じ入った息を漏らしその胸と腕とに身を委ねる。ずっと暗闇に隠れて悲嘆していた時間がもったいなく思えるほど、熱のこもった抱擁だった。
安堵に体の力を抜けば、嬉しさと悲しさが混ざった涙が溢れた。せっかくせき止めてくれた涙だったのに、堪え切れなかった。
ここに辿り着くまで、沢山のものを喪ってしまった。ずっと一緒だった子龍まで無惨に死なせてしまった。代わりに、ようやく得た恋の欠片だった。最後の最後で得たぬくもりだった。
「──もう──他に言うこと、無いんですか」
泣き笑いのまま膨らませられた頬に残る、自分のものではない朱印。けれど今は、それすらいとおしく思える。
頬を抱いた親指で今にもこぼれ落ちそうな涙を拭ってやれば、潤んだ瞳と視線が一直線に重なって、日嗣は堪らずもう一度神依を抱き寄せた。
この娘はこんなにも華奢なものだったろうか。それでいてしなやかな感触もあったが、今はそれより外套や旅荷、見慣れぬ比礼(ひれ)が邪魔ったい。その向こうにあるはずの、女の生の肉体との隔たりが少しでも減ればいいのにと、指を立てて強く強く抱いた。
けれど神依もそれを拒まず、体一杯に感じ入った息を漏らしその胸と腕とに身を委ねる。ずっと暗闇に隠れて悲嘆していた時間がもったいなく思えるほど、熱のこもった抱擁だった。
安堵に体の力を抜けば、嬉しさと悲しさが混ざった涙が溢れた。せっかくせき止めてくれた涙だったのに、堪え切れなかった。
ここに辿り着くまで、沢山のものを喪ってしまった。ずっと一緒だった子龍まで無惨に死なせてしまった。代わりに、ようやく得た恋の欠片だった。最後の最後で得たぬくもりだった。

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