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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第22章 天孫降臨
先程、姿を目の当たりにしながらも口にすることができなかったその名前。それを今こそ奏でれば、男が笑んでくれた気配がした。それで神依も自然と泣き笑いの表情になって、男の胸に顔を埋める。
 あの芳しい香りは今は無い。代わりに何か焦げたような臭いと覚えのある血の臭いがして、どんな道程を経て再び自分を引き揚げてくれたのだろうと思えば胸が一杯になった。あとは少し湿っぽい気がするが、それはお互い様だ。
 日嗣もまた、言葉は無くとも神依の頭に頬を寄せて同じものを分かち合う。
 あと少し時が経てば、もう飾りの方が立派だと揶揄もできないほど艶やかに、水簾(すいれん)のごと背に流れるはずだった射干玉(ぬばたま)の黒髪。悪意に断たれ、長い間、慰めの言葉一つ掛けてやれなかった。今はそれでも刺々しさを無くし綿毛のようにふわふわと風を孕んでいたが、その柔い種子に添う若い花のように、少女からはほのかな甘みのある香りがしていた。
 恋い焦がれた女。その香りを移すように出来うる限り自分に引き寄せて、密着させて──それでも足りず、突き抜けてしまいそうな程に腕や手に力をこめれば、胸元からくぅと仔犬が鳴くような音がして、日嗣はようやく肘から下の分だけ体を離す。
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