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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第22章 天孫降臨
「私は違う。私は女神様じゃない。……あなたが愛した女性ではないんです」
 それは、男の正体を顕現させる言葉だった。
 もうずっと前のことに思える。天地開闢(かいびゃく)から国生みまで……一番最初に原初の女神に導かれたあの時、神依は確かに一度、男神に黒い粘ついた影がまとわりついているのを視た。
 子の代わりに命を落とした妻を想い……愛する者と子をなすという、本来ならば、最上の愛情で満たされるべきだった時を憎しみで埋め、その妻が遺した子すら屠(ほふ)り、この地へ降り来て。
 これは多分、男神の両極端の執着がわだかまって淀と──人の穢れとなったもの。男神は地上に戻ったが、それはこの黄泉国に取り残されて、今もこの場所から動けずにいる。
 原初の男神の残滓。置き去りにされてしまった、女を愛した心そのもの。
 「……」
男は何も答えない。代わりにまたあの鐘が鳴り響いて、男の背後で黄と黒の棒がゆっくりと動く。枝に巻き付いた蛇がゆらゆらと胴を動かすようにそれはのったりと頭を下げ、その上では縦並びの真っ赤な瞳がちかちかと点滅を繰り返していた。鼓動、血潮。生き物ではない生き物の、ひどく固そうな命。
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