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こじらせてません
第2章 馴致

メッセージの来着に気づかないほど、お楽しみだったというわけだ。
人間の体から涙腺なんかなくなってしまえばいいのに。
視界の上のほうで、睫毛の靄が震えたから、ミサは視線を外堀通りへと移した。
「えっと、……か、かのじょ」
アキラの声が聞こえてきた。
そんなことは、いちいち言わなくてもわかっている。
少年は未熟だから、残酷な紹介を行なってきた。
これまで一度も、人を罵ったことはない。
だが罵りたいし、泣きたい。つまり泣き喚きたい。
この憤怒にふさわしい怒号を選びたい。
一人暮らしではない、歩道を多くの人が行き交う街中だったが、候補を検討する前に、
「アキラ」
と、女の子の声が聞こえてきた。
呼び捨てかい。……そりゃそうか。
見てくれだけでなく、声も可愛いカノジョだ。
では自分は何だったんだろう。
訊いてみたいが、だいたいの身分呼称の予想がつく。より、悲しくなるだけだ。
それにしても、喉から出かかった罵倒は、喉を通過して口腔へ響き、唇から発せられたら、女の子へと向いてしまうところだった。
罵倒の向き先は、アキラの方へであるべきなのに、あふれてくる激情に任せようとしたら、このカノジョを口汚く罵りそうになった。
それは、言いがかりでも、やつあたりでもない。
……負け犬の遠吠えというやつだ。
罵るのはやめて、泣くだけにしよう。
泣くだけにするなら、家に帰ってからにしよう。
情けなさで、溶けるでは済まない、消えてしまうかもしれないが、そうしよう。
「ホントに?」
「ホントだよ。……か、かのじょの、ミ、ミサさん」
少年は未熟だから、修羅場の乗り切りかたを知らないのだ。
カノジョという身分に唯一性はない。そんな、男の身勝手な理屈が容易に受け入れられるわけないだろう。
アレか? 「本命」であるとか、ないとか、そういうアレか?
やはり、最後のしつけとして罵ってやるべきだった。
ミサは外堀通りから、アキラの方へと目線を戻した。
こちらを見てきている。純粋な瞳だ。
女の子も、こちらを見ている。
勝ち誇ったような目――ではなかった。
人間の体から涙腺なんかなくなってしまえばいいのに。
視界の上のほうで、睫毛の靄が震えたから、ミサは視線を外堀通りへと移した。
「えっと、……か、かのじょ」
アキラの声が聞こえてきた。
そんなことは、いちいち言わなくてもわかっている。
少年は未熟だから、残酷な紹介を行なってきた。
これまで一度も、人を罵ったことはない。
だが罵りたいし、泣きたい。つまり泣き喚きたい。
この憤怒にふさわしい怒号を選びたい。
一人暮らしではない、歩道を多くの人が行き交う街中だったが、候補を検討する前に、
「アキラ」
と、女の子の声が聞こえてきた。
呼び捨てかい。……そりゃそうか。
見てくれだけでなく、声も可愛いカノジョだ。
では自分は何だったんだろう。
訊いてみたいが、だいたいの身分呼称の予想がつく。より、悲しくなるだけだ。
それにしても、喉から出かかった罵倒は、喉を通過して口腔へ響き、唇から発せられたら、女の子へと向いてしまうところだった。
罵倒の向き先は、アキラの方へであるべきなのに、あふれてくる激情に任せようとしたら、このカノジョを口汚く罵りそうになった。
それは、言いがかりでも、やつあたりでもない。
……負け犬の遠吠えというやつだ。
罵るのはやめて、泣くだけにしよう。
泣くだけにするなら、家に帰ってからにしよう。
情けなさで、溶けるでは済まない、消えてしまうかもしれないが、そうしよう。
「ホントに?」
「ホントだよ。……か、かのじょの、ミ、ミサさん」
少年は未熟だから、修羅場の乗り切りかたを知らないのだ。
カノジョという身分に唯一性はない。そんな、男の身勝手な理屈が容易に受け入れられるわけないだろう。
アレか? 「本命」であるとか、ないとか、そういうアレか?
やはり、最後のしつけとして罵ってやるべきだった。
ミサは外堀通りから、アキラの方へと目線を戻した。
こちらを見てきている。純粋な瞳だ。
女の子も、こちらを見ている。
勝ち誇ったような目――ではなかった。

