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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
 


 明らかに、掃除を邪魔するための故意的なもの。

 磨いた廊下は、広範囲で水浸しの上に細やかな花が散り、さらには花瓶の破片があちこちに広がっている。

 これは――。


「怪我、大丈夫ですか!?」


 掃除のことより、怪我のことが気になった。

 わざととはいえ、これだけの破片だ。

「目とかも大丈夫ですか? 服もよく払って下さい。あ、髪についてる。危ないですね、着替えて髪洗った方がいいかもしれません……」

 白い欠片をとって上げて見せたら、怯えた顔をしながら走って行ってしまった。

 な ぜ に ?

「……また、派手にやられたね」

 腕組をした朱羽が壁に背を凭れさせるようにして、立っていた。

 音がしたから飛んできてくれたんだろう。

「うん、やられたね。朱羽、危ないからそっち行ってて。怪我人出ないうちに、今、綺麗に片付けるから」

「わざとされたんだろう? 文句は言わないの?」

「言わない。根性なしに思われているから、頑張る」

「ふふ、そうか」

 朱羽は愉快そうに笑った。

「あたしは大丈夫だよ。もっと辛いことを乗り越えて来たんだから」

 拳を握って見せると、朱羽が目を細めて笑う。

「よかった、あなたらしさが戻って来た」

「あたしらしさ?」

「うん。バイタリティがあって、いじっぱりで負けず嫌い」

 あたしは笑った。


「その……ありがとう」

「ん?」

「さっき、いろいろと……。だからなんだよね? 頑張れるようにって」

「ふふ。俺はあなたと抱き合えることが嬉しいから、あなたを愛しただけだ。そこになにも偽りはないよ?」

 朱羽はふっと笑うと、あたしに近づいて、ぽんぽんとあたしの頭を手のひらで軽く叩くと、背中を向けて片手をひらひらさせて遠ざかる。


 えっちな朱羽。優しい朱羽。聡い朱羽。

 どれもがあたしが好きな朱羽。


 こうやって応援して貰っているんだから、負けるものか。


「あたし、ファイト!! お――っ!!」


 ……あたしがめげてるかと思って様子を見に来た女の子達が、怪訝な顔を見合わせていたことに、知らずして。

 
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