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蕩けるようなキスをして
第64章 代わりじゃない
「先生が貸してくれた本に、お礼を書いた付箋を貼って返したの-」
初めは、たったひとこと。
次に借りた本を返す時は、ふたこと。
レポートの提出時には、それよりも長く。
事ある毎に、切っ掛けを必死に探し、書いては貼った。
勿論、先生を困らせるような事は一切書かない。
万が一、誰かに見られたとしても問題のない、当たり障りのない言葉を選んで。
『今日の授業も凄く面白かったです』
『今日みたいなお天気の日は、気分も晴れ晴れしますね』
『今日は少し声が掠れているようでしたが、大丈夫でしたか』
最初は直接『ありがとう』や『そうだね』を言ってくれていた先生だったが、ある日、文字で返してくれたのだ。
『お勧めの本があるよ』
そう言って貸してくれた、一冊の参考書。
いつもようにお礼を言い、鞄にしまおうとし、気付く。
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