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蕩けるようなキスをして
第57章 クリスマス・イヴ
「十二時まで待つつもりで来たのに。そんなの最初から予想出来た事なのに。四時間待ってそれでも来てくれない彼女に、心折れかけてた。寒さも、弱った心に拍車をかけてたと思う。待ち合わせ場所だった書店も、九時で閉店で。あと三時間、この寒空の中、耐えれるかなって考えたら、不安が一気に押し寄せてきて。…迷い始めたその時、ほんとに偶然、少し前を歩く彼女によく似た背中を発見した-」
彼女がこちらを向く気配がした。
陸もそれに応えるかのように華夜子を見、薄く笑った。
「来てくれたのって、直前までの落ち込みようはなんだったんだってくらい、舞い上がった。そして、声を掛けようとして…凍り付いた。だって、隣りには、俺の知らない俺じゃない誰かがいたから」
それは結局、誤解だったのだけれども。
それがもしも、誤解じゃない現実だったのなら。
自分は今、どれ程、荒れ狂っていただろう。
誤解であった現実に、今更ながら安堵する。
だって今こんなにも、心は満たされている-…。
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