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蕩けるようなキスをして
第56章 誰でもない
傍から見ているだけの、ただの憶測に過ぎないけれど。
困ってるのだろうか。
少なくとも、歓迎してる、嬉しい-そのような態度ではなかった。
その刹那。
逡巡したの後(のち)。
陸の足は、彼女に向かってた。
足早に近付き、抗う事など許さぬ強い力で、横から彼女の左腕を浚(さら)った。
「…っ!」
予想もしない出来事に、華夜子は短い悲鳴を上げる。
そして、自分の腕を取る人物が誰かを認めると、驚愕の声を上げそうになる。
「…!」
その見開かれた瞳が、彼女の驚きの度合いを示していた。
息を呑み。
僅かに唇を開(あ)いたまま。
ひたすら、陸を凝視している。
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