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蕩けるようなキスをして
第51章 TtoK
このまま何事もなく、左手から手袋を外してくれたのなら。
このまま何事もなく、知らない振りをしていよう。
このまま何事もなく、何も知らない自分でいよう-…。
祈るような気持ちで、彼女を見守っていた。
少しの時間をかけ、やっと、左手からも手袋が外された。
安堵の息を漏らした彼女。
同じように自分もまた、緊張が解かれ、溜め息を吐いた。
ふたりしてほっとした、その直後。
手袋を外すと同時。
嵌めていた指輪も気付かれぬように、指から一緒に抜いていたのに。
彼女はその手袋を、床に落としてしまった-なんの悪戯か。
微かな金属音を立て、こちらに向かって転がってくるもの-何か悪い夢を見ているようだった。
でも。
確かな現実で。
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