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おんな小早川秀秋
第3章 秀俊修行

正成はあまり秀俊の交友関係には詳しくないのか、曖昧な答えを返す。近しければ近しい程、顔を合わせた時が恐ろしい。あきが不安にうつむいた、その時だった。
「久し振りだねえ、秀俊」
足が悪いのか、杖をついた壮年の男が声を掛けてくる。久し振り、というからには、秀俊の知り合いなのだろう。だが連日開かれる宴で、にやりと笑う不気味な男の顔は見覚えがなかった。
ひとまず頭を下げてみれば、同じように頭を下げた正成が、慌てた声を上げる。
「これは、如水様。一体どうして、ここに……」
如水。その名前に、あきは聞き覚えがある。中国地方の中でも特に名のある武士の一人である、黒田官兵衛。如水とは、彼の法名だった。
「そうかしこまるな。なに、秀俊の件、取り持ったのは俺だ。その後どうなったか見届けるのは、俺の義務だと思ってな」
顔を上げ、あきは改めて如水の姿を確認する。見た目はあまり強そうではないが、腹の読めない瞳が、どこかあきを不安にする。すると如水は、あきの頬に手を伸ばすと、右目の下辺りを親指の腹でこすった。
「あ、あの……何か、付いていましたか? 如水様の前で、失礼しました」

