この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第27章 第十一話 【螢ヶ原】 其の参

と、お彩がふと思い出したように言った。
「昔、おっかさんが連れていってくれたところがあるの」
伊勢次が眼を瞠った。
「子どもの頃、おっかさんに連れられていったのよ。小さな村だった」
お彩の記憶が巻き戻されてゆく。
はるか彼方にあった幼き日の光景がまるで水面からぽっかりと顔を出すように頭をもたげた。ひなびた農村の外れにある辻堂。その前に清らかな水を満々と湛えてひろがる池。池の水面を彩る無数の薄紅色の蓮の花。
それらのひそやかな光景が秋の茜色の夕陽に鮮やかに照らし出され、池の上空をかすめる赤トンボは、空にひろがる夕陽の色に染まっていた―。
「昔、おっかさんが連れていってくれたところがあるの」
伊勢次が眼を瞠った。
「子どもの頃、おっかさんに連れられていったのよ。小さな村だった」
お彩の記憶が巻き戻されてゆく。
はるか彼方にあった幼き日の光景がまるで水面からぽっかりと顔を出すように頭をもたげた。ひなびた農村の外れにある辻堂。その前に清らかな水を満々と湛えてひろがる池。池の水面を彩る無数の薄紅色の蓮の花。
それらのひそやかな光景が秋の茜色の夕陽に鮮やかに照らし出され、池の上空をかすめる赤トンボは、空にひろがる夕陽の色に染まっていた―。

