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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第21章 第九話 【夫婦鳥~めおとどり~】 其の壱

奇蹟は起こらなかった。御仏はお彩の必死の祈りも聞き届けては下さらなかった。伊八は四十二年の生涯を終えた。彼が一生愛し続けた甚平店で最愛の娘に見守られながら御仏の腕へと迎えられたのだ。
父が最期の瞬間を迎えた時、お彩は泣かなかった。人はあまりに哀しい時、涙さえ出ないのだと、この時、お彩は初めて悟った。
五年前に母が亡くなったときには、まだ父が傍にいてくれた。お彩は一人ではなかった。
だが、父までもが亡くなった今、お彩は本当にこの世で一人になってしまった。
―良いか、たとえ世間様が皆、お前の敵になったとしても、父ちゃんだけはお前の味方だってことを忘れるな。何があったって、必ずここに帰ってこい。父ちゃんが生きている限り、お前の帰る場所はここにあるんだぞ。
父が最期の瞬間を迎えた時、お彩は泣かなかった。人はあまりに哀しい時、涙さえ出ないのだと、この時、お彩は初めて悟った。
五年前に母が亡くなったときには、まだ父が傍にいてくれた。お彩は一人ではなかった。
だが、父までもが亡くなった今、お彩は本当にこの世で一人になってしまった。
―良いか、たとえ世間様が皆、お前の敵になったとしても、父ちゃんだけはお前の味方だってことを忘れるな。何があったって、必ずここに帰ってこい。父ちゃんが生きている限り、お前の帰る場所はここにあるんだぞ。

