この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第21章 第九話 【夫婦鳥~めおとどり~】 其の壱

「おとっつぁん、苦しいの、どこか傷むの?」
伊八はかすかにかぶりを振るような仕草をした。
「―ぬけ」
父は何かを訴えようとしているようだったが、言葉にならず、うまく聞き取れない。
お彩が父の方にいざり寄り、口許に耳を近付けた。荒い呼吸の音、だが、苦しげな息遣いの下で確かに聞き取れたのは次の言葉だった。
「その男に心から惚れているなら、想いを貫け」
「おとっつぁん?」
お彩が次に父を呼んだ時、既に父の瞼は固く閉じられていた。
そして、その夜半、伊八はついに再び目ざめることなく、ひっそりと息を引き取った。まるで眠ったままであるかのような、安らかな死であった。
伊八はかすかにかぶりを振るような仕草をした。
「―ぬけ」
父は何かを訴えようとしているようだったが、言葉にならず、うまく聞き取れない。
お彩が父の方にいざり寄り、口許に耳を近付けた。荒い呼吸の音、だが、苦しげな息遣いの下で確かに聞き取れたのは次の言葉だった。
「その男に心から惚れているなら、想いを貫け」
「おとっつぁん?」
お彩が次に父を呼んだ時、既に父の瞼は固く閉じられていた。
そして、その夜半、伊八はついに再び目ざめることなく、ひっそりと息を引き取った。まるで眠ったままであるかのような、安らかな死であった。

